子連れ旅行温泉日記の目次子連れ温泉ガイド地熱愛好会 > 子連れ旅行温泉日記 > 秋の北志賀小旅行(テキスト版) > 初日「紅葉の北志賀へ」

◇◆秋の北志賀小旅行◆◇

1.紅葉の北志賀へ




 多忙続きでとても秋は出かけられないと思っていた我が家が上信越道を長野へ向かっている。
 その理由は単純。
 ラッキーにも国内旅行宿泊券が当たったから。

 私はもう随分と長いこと自分のウェブサイトを運営してきて、ある時トクートラベルという旅行社(?)を知り、私の気に入っているここを紹介したいという気持ちからアフィリエイトを始めた。

 でも広告よりも自分のサイトを自由に更新することに忙しかった私は、トクーがアフィリエイターを対象にキャンペーンを行ったことも知らなかった。
 知らなかったけど、自動的にキャンペーンに登録されていた私は、ある時当選しましたというメールを頂いた。

 「きゃ〜っ、ハワイ旅行!!?」
 飛び上がって喜んだのもつかの間、よく読むとそれはハワイ旅行のオプショナルツアーだけだった(夜景を見に行くとかそんなやつ)。

 ・・・ハワイ旅行じゃなくてハワイ旅行のオプショナルツアー?
 まず自力でハワイに行かないと使えないじゃん(号泣)。

 仕方ないのでキャンセルした。それが第2回のキャンペーンだった。

 そのときキャンペーン告知頁を見ると、その使えないハワイオプショナルツアーの他、一番良さそうなのが国内宿泊券、その他に地域特産物なども載っていた。
 温泉の宿泊券が一番いいけど、食品が当たったって嬉しいのに、よりにもよって使えないオプショナルツアーか〜。
 結構がっくりしたものだ。

 ところが、先日またもや当選のメールが届いた。
 第5回キャンペーンと書かれていた(何時の間に5回も)。

 それも今回こそ宿泊券だ。
 場所も長野で十分使える!!

 で、でも制限期間が3週間ぐらいしかない。おまけに休前日不可。ペアで素泊まりのみ?

 い、いや、でも使ってやる。
 せっかく当てたんだものね。
 長野まで行ってやろうじゃないのー。


初日 2008年10月17日(金)


 朝は4時前起き。
 子供たちの学校が休みの今日にパパの有給を合わせた。
 本当は他の場所にでももう一泊して二泊三日コースにしたいところだが、あいにくと日曜日からパパは出張だしカナも行事がある。
 泣く泣く金曜日1泊の土曜日帰着コースにした。

 上里SAで美味しいパンを購入して朝ご飯。関越から上信越道に入って、今は順調に長野へ向かっている。
 空はよく晴れていい天気だ。

 いつものように渋滞回避とETC割引利用の目的から、早くに東京を出立すると、現地にも早く着きすぎる。
 今回も7時頃には上信越道の信州中野ICを降りて、私たちは木島平村を北上していた。

 朝早くから時間をつぶせる所は限られている。
 でもこの方面だったら心配ない。
 馬曲があるさ。馬曲温泉が。

 馬曲温泉というのは、木島平の村営日帰り温泉で、今や全国にも名高い絶景露天風呂で知られている。
 囲いも何も無く、そのまま湯船から谷が見下ろせる。
 世間でも山梨のほったらかし温泉と並ぶ絶景温泉で、私個人では環境、その他いろいろ勘案すると、景観でベスト1をつけても良いと思っている。

 それに馬曲温泉は私を温泉好きにさせたきっかけの温泉でもあるし、パパに至っては近くに大学の友人が住んでいることもあってもう10回も入ったと豪語する気に入りぶり。

 というわけで、私たちは真っ直ぐ馬曲温泉に向かった。
 馬曲温泉は朝風呂用に6時からオープンしている。
 今日は晴れ・・・もうこれは馬曲に行くしかないじゃないか。

 前方を行く軽トラの荷台にちょっと太めの牛乳瓶のようなものがいっぱい。
 「あれ、きのこの培養カップ?」とパパが言うと、そのトラックは左折し、きのこセンターのような施設に吸い込まれていった。
 ホントにきのこだったんだー。

 その道を更に進むことおよそ5分。
 馬曲温泉到着だ。
 平日金曜日だし、朝9時半にもなっていないが、もう駐車場にはぽつぽつ車が停まっている。
 自販機で入浴券を買い、三角屋根の建物で受け付けてもらう。
 「内風呂はこの建物ですが、露天風呂は坂道下ります。・・・女湯の露天風呂は撮影が入っているんですが・・・」
 受付の女性は奥を振り返って、「あっ、ちょうど撮影が終わったみたいです。どうぞごゆっくり」と。
 ちなみに撮影はテレビ局のものだったようだ。
 どこの局かまでは確かめてこなかった。

 露天風呂への坂道を下りながら、馬曲温泉はカナとレナのお気に入りの温泉だったんだよという話をしたけれど、二人は覚えていないと言う。
 まあそりゃそうかも。
 二人を連れて入ったのは四年ほど前の冬だが、年月よりもその間にも沢山の温泉に連れ回しすぎて、たぶん記憶がごっちゃになっている。

 脱衣所をのぞきこんで、やっぱり空っぽ。
 駐車場に車はぽつぽつあったけど、テレビ撮影中に露天風呂に入っている心臓の持ち主はそうはおるまい。
 誰もいない馬曲温泉を堪能させてもらうことにしよう。

 カナもレナも脱衣所に入って、何だか覚えているような気がすると言い出した。
 露天風呂に出て確信に変わったらしい。ここは覚えているとはっきりと言った。
 ・・・前回キミタチは1時間以上このお風呂に入っていて、全然出ようとしなかったんだよ。

 広々とした露天風呂は柵も囲いもなくそのまま下界が見下ろせる。
 青空にうっすらと掛かった靄が山も里も薄青く見せている。
 初めてここに来たときは、対岸の山からのぞいたら、女湯まで丸見えなんじゃないかとびっくりしたものだ。

 お湯はすっきり無色透明で、少しきしつく感触がある。
 僅かに塩素消毒の臭いがするのが残念だが、これは仕方ないかもしれない。
 きしつく肌触りはしばらく入っているとすべすべする感触に変わってくる。
 脱衣所の小屋の脇で赤い実が彩りを添えているが、まだ山は緑。紅葉には少し早い。

 他に誰もいないのを良いことに、カナとレナは露天風呂の縁にポケモン人形を並べて遊んでいて、今回も1時間以上出てこなかった。
 私が先に上がって服を着て待っているのはいつもここばかり。
 私たちが上がる頃にぽつぽつと他のお客さんがやってきた。
 パパはもう、待ちくたびれている頃だろう。

 水車小屋の見える縁側でパパは待ち惚けていた。
 私が来ると、中でおでんを売っていたから卵を買ってきてとお遣いを頼んでくる。
 「そういえばさぁ、馬曲温泉の食事処、11時から営業なんだけど、さっき見たら営業中の看板が出ていたわけ。もうやってるのかと思って聞いたら、これが撮影用だったんだよ」とパパ。
 テレビで映すために、一時営業中の看板を出しただけらしい。
 ちなみにテレビが撮ったのが男湯ではなく女湯なのは、馬曲温泉は女湯の方が広くて景色が良いから。
 家族で来た場合、男湯はパパだけだけど女湯はママと子供たち。だから女湯の方が広く作ってある。
 非常に合理的だね。
 他の温泉もぜひ見習いなさい。



 馬曲温泉の次は、手すき和紙体験を考えていた。
 ちょうど馬曲の手前に手すき和紙工房があるのだ。

 先日キッザニア東京でカナとレナは手すき和紙を体験したばかり。
 だから喜んでくれると思ったのに、
 「やだ、やらない」と言う。

 「何で?」
 「だってもうキッザニアでやったよ」
 そりゃそうだけど・・・。
 「ママはやってない。ママはやりたい」
(子供のみ遊べるキッザニアではママは体験できないし)
 するとパパも「パパもやってないからやりたい」と言い出した。
 渋々頷く子供たち。
 そんな顔をしているけど、どうせやったらはまるくせに。
 ママとパパはそう思っている。
 いつだって最初は渋い顔をするのだ。まったく気にくわない。

 手すき和紙体験工房の名は、「内山手すき和紙体験の家 かみすき屋」と言った。
 農家の間をぬって進み、本当にこんな所に観光スポットがあるの? という様な場所だった。
 和風の建物が瀟洒な感じ。
 とりあえず駐車場に車を停めて入ってみた。

 中も非常に洒落ていた。
 有機的なカーブを描く薔薇などの花を模した紙製の大きなランプが下がっている。
 願い事が書かれた和紙のコースターがいくつも簾のように下げられていて、奥の方には掛け軸や陶器も展示されているようだ。
 見とれていると、主とおぼしき女性が出てきて体験内容を説明してくれた。
 受付の壁に見本が貼ってある。
 葉書、うちわ、ブックカバーにもなるサイズの紙など、選んで紙すきをして、その後模様を入れられるようだ。
 キッザニアでは紙すきそのものしかできなかったけど、ここではデザインもできるみたい。
 これならカナも好きなんじゃない?
 どう?

 見本の葉書を見て、カナは興味を持ったようだ。今度はやりたいと言い出した。
 しかし妹のレナはそれでもやりたく無いと言って、一人で建物の外に出てしまった。

 たぶん理由は判ると思う。
 私はレナの横に行き、紙すきはまだ体験したことのないパパとママでやるから、レナは模様を作ればと言った。
 キッザニアで紙すきを体験したレナは、どろどろに溶けた楮の入ったすき舟に手を突っ込むのが嫌だったのだ。
 (私は別にいいんじゃない? と思うけど)

 ようやくレナも納得して工房に戻ってきた。
 作品は葉書を作ることにする。
 葉書は一人3枚作れるが、大人が二人で3枚ずつの葉書をすき、四人で計6枚のはがきに柄をデザインすることにした。
 ちなみにこの工房では、すいた和紙を使ったテーブルライト、時計、万華鏡なども作らせてもらえる。
 上手に作ればかなり洒落たものができると思う。

 工房の中ほどに楮を溶いて白く濁ったすき舟が置かれていた。
 ここに簀をはめた桁、すなわち簀桁を入れて、紙を漉いていく。
 入れるときは垂直に。
 それから桁にたっぷりとすくって水平にし、前後左右に水平のまま何度か振る。
 子供たちがキッザニアで体験していたときには、これの大きいものを30回ぐらい振っていたが、こちらでは桁も葉書3枚サイズで小さいし、振る回数も数回で良かったのでずいぶん楽だった。
 桁の編み目から水分が落ちて、楮の繊維だけが桁に残ると、もう一度同じ工程を繰り返す。
 2度すくいあげて出来上がり。
 後は乾燥しきる前に、模様をつけていく。

 これが面白い。
 様々な色に染められた細かい和紙のかけらを、今すいたばかりの真っ白な和紙に自由に載せて模様をデザインするのだ。
 カラーの和紙は好きな形にちぎって良い。
 また、大きさが足りなければ何枚も重ねて乗せれば良い。
 ちぎった形が味のある毛羽を産み、重ねた色が微妙なグラデーションを産む。
 思わず四人、夢中になって作り始めた。

 パパは子供に受けようと、ポケモン柄を作った(ちなみにフワンテ)。
 私が蝶を作ろうかなと言うと、カナも蝶がいいと言い出した。
 レナはニンジンとウサギを作った。
 ちょっと行き当たりばったりに作りすぎたカナは後悔して、一度は作り直すと言ったがみんなで止めた。
 葉書は6枚なので、各自が一枚ずつ作り終えた後は、パパとママ、カナとレナで組んで、残りの2枚をデザインすることにした。

 パパは工房の外で四つ葉のクローバーならぬ三つ葉のクローバーを二つ摘んできて、ぶちっと葉をちぎり加工して、四つ葉のクローバーに見せかけて葉書の上に置いた。
 「パパはこれでおしまい」と彼が言うと、子供たちは手抜きだとブーイング。
 残りはママが花模様を入れて仕上げた。

 カナのさっきの失敗を踏まえて、カナとレナは相談して、作り出す前にデザインを決めたようだ。
 こつこつと細かく何を作っているのかと思えば、月夜を見上げた黒猫で、夜空の青いところは小さな青い和紙をいくつもいくつも重ねて貼ったものだった。
 「これは力作だねぇ」
 ちょっと絵本の一場面みたい。

 6枚全てのデザインが完成すると、上からもう一度すき舟のとろみをそうっと上から掛ける。
 これで模様は葉書と一体になる。
 乾かすのに20分ほど。
 パパはその間に食事して来ようと提案した。



 昼食を取る場所はもう決めていた。
 先ほど行ったばかりの馬曲温泉の手前に美味しそうな蕎麦屋があったから。

 そもそもパパは信州に来たら蕎麦だろうと思っていたようだ。
 馬曲温泉に行く途中でこの店を目にし、もうその時点からここと決めていた。
 店の名は、健生庵 山愚。東京の銘酒居酒屋を経営する主がこだわりの蕎麦を打つという店らしい。

 外観は至ってシンプル。
 白い暖簾には小さく店名があるのみ。
 中はお客さんがちらほら。
 窓が大きく明るい日差しが差し込んでいる。

 この店の障子やメニューの表紙など、さっき体験してきたばかりの内山和紙製とおぼしい。
 ちなみに内山和紙というのは、元々障子紙として名を馳せた工芸品だ。

 注文したのは十割そば2枚と、更科そば1枚。
 突き出しに煮昆布と蕎麦の実を味噌であえたものが出されたが、この味噌和え、甘くないチョコレートみたいな味がした。

 しばらくして運ばれてきた十割蕎麦はうっすらと緑茶のような色合いで、食べてみるとふわりと蕎麦の香りが広がる。細い麺はほどよい硬さ。
 更科蕎麦は透明感のある白。
 こちらは十割蕎麦より品良くクールな味がする。
 パパは十割蕎麦が気に入ったみたいだが、私は更科蕎麦の方が好きかも。

 カナはあまり食が進まなかったようだが、レナはほぼ一人前平らげた。
 さっきの和紙工房のすき舟さながら、とろりと白濁した蕎麦湯が運ばれてくると、旨い蕎麦屋は言わなくても蕎麦湯が出てくるが持論のパパは思わずにんまり。

 「確かに旨かった」とパパ。
 ちょっと修善寺で食べた蕎麦と味が似ていた。
 あそこの蕎麦は美味しいけど随分と待たされたので、パパはおかんむりだったのだ。



 昼食を終えて和紙工房に戻ると、もうすっかり6枚の葉書は完成していた。
 さっき乾かす前に見たときよりも、もう少し色と色の輪郭がにじんで全体として一体化している。
 「良い出来で、額に入れてもいいですね」と和紙工房の女主人。
 二人は出来上がった葉書をとても気に入って、何故か車の後部座席の窓に並べて旅を続けた。
 やっぱりやってみて良かったでしょ。
 紙すき和紙体験。

 「そろそろ泊まるところに行くの?」とカナ。
 いや、まだちょっと早いかも。
 「次はロープウェイに乗ろうよー」と私。
 パパは乗り気で無さそうだったけど、レナが賛同した。
 じゃ、次の目的地は北志賀竜王。

 現在地から竜王に向かうには、国道403号線を南下する必要がある。
 残念ながらずいぶん雲が増えてきた。
 せっかくロープウェイに乗ろうと思っているのに。

 竜王ロープウェイベゼルは、166人乗りで世界最大級。
 全長2293mの距離を一気に駆け上がる。
 もちろんスキーシーズンはスキー用のロープウェイとして。
 グリーンシーズンはハイキング客などを乗せて。
 今回の旅行は10月半ばでしょ。
 ほら、紅葉シーズンじゃない。
 そう思って前日にパパがネットで調べたところ、「ちょうど志賀高原が紅葉真っ盛りだって」とのこと。
 ということは・・・北志賀も同じくらいよね?
 馬曲温泉ではまだだったけど、標高を上げればばっちりよね?
 期待で胸を膨らませながら、私は北志賀竜王へ向かった。

 北志賀と言えば、いやいや志賀高原もそうだけど、スキーで有名な高原。
 しかし、まさかグリーンシーズンがこんなにも寂れているとは。

 ホテルやロッジが並ぶ北志賀の中心地を抜けて行くときに、その様子を目の当たりにしてしまった。
 酷い・・・。
 どこもかしこも無人もいいとこ。
 完全に締め切られている宿も少なくない。
 まあ確かに今日は平日だけどさ。
 それに雪が降れば賑わうんだろうけど。
 一応週末目前の金曜日だし、何より紅葉真っ盛りなんじゃないの?
 それにしてもどこもやる気無さげ。
 こりゃあ温暖化で雪が減ったら、この辺やってかれ無くなっちゃうんじゃなかろうか。

 一瞬、ベゼルも休んでいたらどうしようかと思った。
 一応事前に調べてきたところによると、毎日運行しているはずなんだが。

 良かった。やっていた。
 でもロープウェイ乗り場もやっぱり寂れている。
 雪のないスキーコースはそれだけでも侘びしいと言うのに、秋の茶色い枯れ草が地面を覆っていて、あまりひとけも無い。

 がらんとしたロープウェイ乗り場の金属でできた床を歩いて受付まで来た。足音が高く響く。
 パパが家族四人分の往復料金を払う。
 乗り場の奥の方にベンチがあったのでそこで待つことにした。
 待っているうちに一組二組、他にもお客さんが来て、それからロープウェイのドアが開いた。
 時刻表は30分に一本。
 でも100人以上が乗れる大きな箱の中はがらがらだった。

 お客さんは数えるほどしかいないので、どこに座っても問題なし。
 子供たちは一番前に陣取った。
 やがてロープウェイは動きだし、するすると昇っていった。

 眼下の緑はだんだん色付き始め、やがて赤や黄色の燃えるような色合いに変わってきた。
 でも本当に残念なことに、ロープウェイベゼルの窓ガラスは全て一面の傷だらけで、外の景色はぼんやりとしか見えなかった。
 スキーのためのロープウェイだから、スキー板やスノーボードが当たって傷だらけになるのは判る。
 判るけど、グリーンシーズンに観光用に稼働させようとするなら、もうちょっと何か考えてほしいな。

 北志賀竜王ロープウェイは登りも下りも30分に1本。
 ちょうどコースの中ほどで、登りと下りがすれ違う。
 でもすれ違った下りの箱には、係員一人しか乗っていなかった。
 果たして元が取れているんだろうか。

 傷だらけの窓ガラスから紅葉を見ているうちに終点の山頂駅に到着した。
 山頂駅と言っても、そこはまだ本当の山頂ではなく、冬季はこの先リフトを乗り継いで本当の竜王山頂まで登ることができる
 グリーンシーズンは自分の足で更に2キロほど昇る気がなければここで引き返すことになる。

 ロープウェイの山頂駅にはシャルムというレストランが一軒建っている。
 その他はなんにも無い。
 シャルム周辺には高山植物を植えた花壇がいくつもあるのだが、冬間近のこの季節、どこも半分枯れたりしていて侘びしさを倍増させているばかりだった。
 元気が良いのはマツムシソウぐらいかな。

 日も陰り、高度が上がったことにより温度が下がっていた。
 暑がりのパパも半袖の上から裏起毛のトレーナーを被っていたが、それでも寒い寒いと言っていた。

 そんなパパを後目に子供たちは大喜び。
 山頂駅の近くに誰でも鳴らして良いのか鐘があったので、これを鳴らしたり走り回ったり、何故かシーソーが一機設置されていたのでこれで遊んだり。

 結局、パパは30分後の次の便で下ろうとしたようだが、子供たちの反対にあい、1時間ほど山頂駅にいた。

 山頂駅からは真正面にぽっこりと高社山。
 この山は別名「高井富士」とか「たかやしろ」と呼ばれることもあり、深く信仰されている。
 残念ながら高社山はまだ紅葉していなかったので、せっかく昇ってきた竜王ロープウェイの山頂駅からは紅葉が見えなかった。
 紅葉しているのは自分の足下の竜王山の方。
 しかし、自分のいる位置から下はよく見えないものだ。
 そして山頂駅から上は既に紅葉の季節を終え掛けているようだった。

 シャルムで少し暖をとって下山。
 ロープウェイ山頂駅の待合室には既にストーブが燃えていた。
 下りの便の人数は7、8人程度。
 年輩の方が圧倒的に多い。
 そろそろ秋の太陽は低くなってきて、空はほんのりと茜色。



 「で、夕食はどうする?」
 もう宿まであと10分ぐらいだろうという場所まで来て、パパが言った。
 当選した宿は木島平温泉観光ホテル。
 当選内容は2名一室の素泊まりだったため、電話して子供の分を追加してあるが、食事は無い。
 朝ご飯は車の中でパンでも食べさせれば良いが、夕御飯は外食する必要がある。
 温泉街なら最悪飲み屋かラーメン屋ぐらいあるかと思うが、ちょっと今夜泊まる宿の周辺環境はよく判らない。

 そこで近隣で夕食を食べられる店を探そうと、きょろきょろし出したときに携帯電話が鳴った。
 宿からだった。
 「何時頃到着されますか?」
 「ああ、あと10分ぐらいです」
 そう伝えたとき、パパが今通り過ぎた店、ちょっとチェックしてきてと言った。

 T字路の角に建っていたのは木島平村の観光交流センターたかやしろ。
 観光情報や土産物を扱うほか、蕎麦などを食べられる食堂が併設されていた。
 パパはここで夕食が食べられないかと思ったらしい。
 営業時間を聞いてきてくれと言う。

 食堂は樽滝という蕎麦屋になっていた。
 お客さんが一人だけ食事中。
 従業員の方に営業時間を聞くと、5時頃までだと言う。
 「いえね、泊まる宿に食事をつけていないので、どこかこの辺で夕食が食べられる場所がないかと探しているんです」

 それは大変ねぇと従業員の女性は、国道沿いを少し進んだ所に、「肴屋」という飲み屋があり、さらに進むと「もりもり」という焼鳥屋があると親切に教えてくれた。その辺りなら何か食べられるだろうと。
 私が一通り聞いて、お礼を言っているところにパパがやってきた。
 営業時間だけ聞いているにしては遅いと痺れを切らしたらしい。

 パパは土産物屋でちょっと買い物をして、ついでに土産物屋のレジのおじさんにも食事処を聞いた。
 おじさんは木島平周辺見所MAPというペーパーを出してきて、さらに肴屋ともりもり以外の店についても教えてくれた。
 私とパパは車の所に戻って、長野の人たちは親切だねぇと肯き合った。



 これらの話は聞いておいて本当に良かった。
 なぜならこの先、宿に至るまで食事のできそうな店は無かったからだ。
 いやいや店が無い訳じゃない。
 あちこちに食事だとか軽食だとか書かれた札を下げたペンションのような建物はあるのだが、どこも冬か、せめて週末にならないと開ける気がないのか、完全に閉まっていた。
 ホントにもう〜。北志賀周辺のこの辺りは冬季以外はやる気がなさすぎ。

 近所まで来てから結構道に迷って、ようやく辿り着いた木島平温泉観光ホテル。
 名前からして昭和の響き。
 あまり洒落たところは期待していなかったが、外観はだいたい予想通りだった。
 少し古そうだけど、貫禄が出るほどには古くない。
 何よりがっかりしたのは・・・

 外壁に書かれた「活性石温泉」の文字。
 いや、活性石だの光明石だのという花崗岩を入れただけの水道水が、平然と温泉と名乗ることを厚生労働省は認可しているようだが、私は嬉しくないぞ。
 せっかく当たってタダで泊めてもらおうというのだから文句を言っちゃあいけないのだが、活性石入れただけのお風呂があるだけで、宿名に堂々と「温泉ホテル」とかってつけるのはどうかと。

 とりあえず車を停めて外の出ると、すぐに女将さんが出てきて2階で受付しますからと教えてくれた。
 そう、何故かここ、1階にも2階にもロビーがあるのよね。
 どうやって使い分けているのかしらん。

 階段は赤絨毯で、シャンデリアと服を着た熊の剥製がお出迎え。
 ロビーの前のスペースに古いデスクトップパソコンが何台も並んでいるのが目を引いた。
 ちなみに後でちょっと立ち上げてみたらwindows2000だった。

 お部屋は和洋室。
 手前にベッドルームがあり、奥が和室。
 私は割とこういうのが好きだし、子供たちも自分たちの部屋があると喜ぶ。
 但しパパは狭いなという感想。
 また、窓の外は駐車場の上に当たるのか真っ平らのコンクリがあって展望らしいものは無い。
 そして何故か窓の外、つまり駐車場の上の部分にバドミントンのラケットがひとつ落ちていた。
 誰かの忘れ物?

 早速荷物を置いてお風呂チェ〜ック。
 天然温泉じゃないといまいち気合いが入らないんだが。

 木島平温泉観光ホテルには、クワハウス木島平という内風呂と、薬師の湯という露天風呂がある。
 クワハウス(クアハウスではなく)木島平は夜10時まで。薬師の湯は24時間オープン。
 今日の泊まり客は我が家だけだと言うので気兼ねなく使えそうだ。

 この宿は部屋数だけは多そうだ。
 つまり、合宿やスキー団体に向いている。
 露天風呂は廊下の途中から外に出るようになっていて、そこにはガーデン風の白いチェアがあったり、やはり白い妙な仏像があったりしている。
 女湯は左手、男湯は右手だった。
 お客さんは誰もいないという話だったので両方のぞいてみたが、男湯の方がちょっと広いくらいで全体的な作りは同じ様な感じだった。
 でも何か違和感があるな。
 何だろう?

 お風呂の雰囲気は宿の外観やロビーと比べるとなかなかいい感じだった。
 まあ温泉は偽物だったけど(まだ言ってる)、これならいいかも。
 平成15年にオープンしたというこの露天風呂はとても綺麗だし、後でみんなで入りに来よう。

 しかし、次に向かった内風呂のクワハウス木島平は困った。
 困ったというか、夜10時までに利用して下さいと言うには、明らかに利用を拒否されているような気がする。
 まず入り口にごく低いバリケード。
 もちろんまたげるが・・・というか、またいじゃえ。
 次に電気がついていない。
 女湯脱衣所の入り口のドアを開けたが中は漆黒の闇。
 手探りで灯りのスイッチを探したがどうしても見つからない。
 どうやって入ったらいいの、これ。

 仕方なくこちらは諦め、外に出てみた。

 外の看板は二つついていて、一つには「木島平温泉観光ホテル」。もう一つには「信州木島平のお城 リゾートホテル サンフェリックス」とある。
 ・・・ツッコミどころが多すぎてなんとコメントしてよいやら。
 それにこの木島平温泉観光ホテルとサンフェリックスは同一なのか別々なのか本館と別館なのかもよく判らない。
 なお、隣には木島平高原ホテルというものも建っていて、こちらは木島平温泉観光ホテルが買収して姉妹ホテルとしたものらしい。

 部屋に戻るとパパがこの辺に夕食が取れる店がないか、徒歩で探してみようと提案してきた。
 外に出るついでにパパにもバリケード付のクワハウスを見せると、彼は私がさっきしたのと同じことを繰り返した。
 つまりバリケードをまたいで男湯の脱衣所をのぞき、真っ暗なのを見て取ると、灯りのスイッチを探した。
 だーかーらー、私もそれしたんだけど、見つからなかったのよ。

 ところでこの低い一またぎのバリケード、翌朝には理由が判った。
 この中で犬を放し飼いにしているらしい。小さな室内犬が二匹。
 だからといって、客がいるのにバリケード張っとくのもどうかと思うが。



 歩いて回ったこの辺りの施設も、先ほど竜王ロープウェイに乗るために通った北志賀のホテルやロッジ同様、完全にやる気がないようで閉め切った場所ばかりだった。
 山は紅葉しているのになぁ。勿体ない。

 近くに中央駐車場という場所があるようなので、そこまで歩いてみた。
 パパは大きな駐車場があれば何か店があるのではないかと考えていた。
 適当な道を行ったら行き止まりで、その先がリフトのある斜面になっていたので緑のその斜面を下った。

 中央駐車場の周りには、確かに食事どころもショッピングセンター(?)もあった。
 駐車場の前にダイアパレス木島平という別荘目的とおぼしい大きなマンションが建っているので、そこに来る人などが使うのだろう。
 ラーメン屋もあるのだが、さらにはラーメン屋の軒下に「営業中」と書かれた木の札が立てかけてあるのだが、やはりそこも閉まっていた。
 どこが営業中だ〜っ。
 ラーメン屋の隣にはダーツ・スロット&バーと書かれたハワイアンレストランのようなものもあるが、こちらもお酒の宣伝の幟ははためいているのに、ドアは閉ざされたまま、それ以上に石の階段が崩れ掛けている。
 ショッピングセンターも休業中だ。
 大丈夫かな、この一角。
 パパ曰く、「電気がついていないのは致命的だ」。
 ああそうだね。営業中って書いてあっても電気がついていないんじゃね。

 ひとけの無い駐車場に音楽だけ流れている。
 音がもれてくるのはスキー&スノーボードレンタルと書かれた建物。
 「レンタルショップのおやじさんが中でラジカセでも聞いているみたい」とパパ。
 雪もないのにスキーをレンタルする客がいるわけないし、ここだけ従業員がいたってしょうがないじゃない。

 一通りやる気のない駐車場周辺を見て回って私たちは宿に戻った。
 どうやらこの辺には食事をできそうな店は無いようだ。



 5時過ぎ、結局さっき木島平観光交流センターたかやしろで教わった焼鳥屋に行くことにした。飲み屋だって食事ぐらいできるだろう。
 やはりあそこで教えてもらって助かった。
 こんなにも食べるところが無いとは思わなかったから。

 たかやしろのある角から国道403号線に出て、飯山駅方面に向けて走るとまず右手に肴屋が見えて、次に左手に焼鳥屋もりもりが見えた。
 ちょっと地酒が買いたいと思いさらに走ると、酒屋さんが見えてきた。

 酒屋さんお勧めの水尾と北光、そして限定という言葉に弱い私は木島平村内限定販売の小布施酒造のワイン奥信濃も購入した。

 焼鳥屋もりもりまで引き返してきて、この「もりもり」も「森盛」という酒屋であることに気づいた。
 そして立派な建物は森盛酒屋の方で、飲み屋もりもりはその一角のまことに慎ましいバラック建ての建物の方だった。

 外観の慎ましさから比較すると、中は意外に広く感じた。
 おじさんが一人、カウンター席に座って飲んでいる。
 法被を羽織った女将さんがいらっしゃいと声を掛けてきた。

 早速座って焼き鳥と唐揚げ、ポテトフライなどを注文する。
 テレビでは教職員がギャンブルにはまって使い込みをしたニュースをやっていた。
 「信じられない世の中だねぇ」先に飲んでいたおじさんがつぶやく。
 そのおじさんは一杯ビールを飲み終えると、勘定を置いて店を出た。
 「ああいうのが粋なんだよ」とパパ。
 「まだ開店前なんですけどね」と女将さん。
 「え〜っっ」
 実はこの店の開店時間は6時で、まだあと30分もあるのだった。
 「すいません、開店前に居座っちゃって」
 恐縮する私たち。
 「いいのいいの、お客さんが来たときが開店時間。お客さんがみんな帰ったら閉店時間」
 女将さんは東京に20年以上くらしたことがあると言って、地元の話などで盛り上がった。
 またその逆に、私たちもパパは飯山に親しい大学の先輩がいて何度も訪ねたことがあるし、私も実母が飯山出身なだけあって、この辺りには何かと縁があるのだった。

 「この辺りに来たんだったら馬曲温泉は行った?」と聞かれる。
 「もう何度も行ってるんですよ。今朝も行ってきました」
 やっぱり馬曲温泉は木島平の自慢スポットらしい。
 「でもこの辺はやっぱり寒いですね」とパパが言うと、「あらやだ、今日はいつになく暑い日だったわよ」と女将さんに笑われてしまった。



 夜は家族で露天風呂へ。
 既に夕方一回入ってきたパパが「ここの露天風呂は凄い」と子供たちに説明している。
 「どこがどう凄いの?」
 「男湯と女湯が下で繋がっている」
 ああ・・・というと、秋田の大湯温泉阿部旅館とか、山形の蔵王温泉川原湯みたいな?
 「いや、あんなもんじゃなくて・・・まあいいよ。行ってみれば判る」

 夜は暗いので昼間見た仏像などもやけに不気味に見える。
 男湯と女湯に別れて脱衣所に向かった。

 まだそれほど寒い季節じゃないので、外にある脱衣所でも難儀はしない。
 ただちょっと足下の石が冷たく感じるだけ。
 この露天風呂は石鹸もシャンプーも使用禁止なので、軽く流してから入ることにした。
 私の髪は後で内風呂で洗うとして(電気がつくようになっていたらの話だが)、子供たちの髪は今日は諦めて明日どこかで洗おう。

 お湯は最初ちょっと熱く感じたが、子供たちが入れないほどでは無かった。
 昼間見に来たときに、湯面が男湯と繋がっていることには気づいていたが、近づくと、仕切りがやけに上の方についていることが判った。
 つまり、境目の仕切り板が、湯面ぎりぎりではなくもっと上の方なので、かなり広い隙間が開いているのだ。
 パパが言っていたのはこれかぁ。
 さらに近づくと・・・あれ?
 お湯に潜ったりしなくてもそのまま男湯に行かれてしまった。
 ということは、隙間の上下が人間の頭がすっと通れるぐらいに開いているってことだぁ。
 こりゃやばいんじゃないの?
 丸見えだよ。

 ところが男湯だと思っていたそこに、パパはいなかった。
 「パパー、どこー?」
 声を挙げると、自分が来た方とは別の方からパパの返事が聞こえた。
 あれ?
 どうなってるの?

 なんと、今自分がいる場所は、男湯からも女湯からも来られる混浴ゾーンだったのだ。
 知らなかった〜。この露天風呂が混浴だったなんて。
 パパもこの混浴ゾーンが女湯だと信じていたらしい。ここと男湯とも、女湯同様、湯面に広い透き間の空いた仕切り板がついていた。

 昼間感じた違和感はこれだったのだ。
 外側から見たよりも、実際の露天風呂が小さく見えたので訝しく思ったのだが、なんのことはない、三つ目のお風呂が隠されていたわけだ。
 そしてお湯が入っていないが男女混浴と繋がっているお風呂の他に、もうひとつ混浴ゾーンには屋根のついたお風呂があるようだった。

 レナが浴槽の横に落ちているものを見つけた。
 「それはリンゴだよ」
 混浴ゾーンの上に張り出しているのはリンゴの木だった。
 小さめのリンゴがいっぱいなっている。
 「明日の朝入れば、りんごがなっているところが見られると思うよ」

二日目 快晴・やまびこの丘公園とダリアへ続く


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