子連れ旅行温泉日記

雪見露天風呂紀行◆榛名湖日記8◆


三日目 2003年12月28日(日)

 昨日の夕方でもマイナス8度しかなかった榛名湖は、朝はさらに冷え込んだ。
 湖面に映る空は快晴。今朝も山の上はよく晴れている。

 目を覚ましたカナは、口の中に何か異物を感じたらしく、出してみたらそれは歯だった。6歳の彼女は今、乳歯から永久歯への生え変わり期なのだ。
 下の前歯二本はなかなか抜けず、先に永久歯が生えてしまったので歯医者に連れて行って抜いてきた。医師曰く、今の子供たちは固いものを噛まないから自然に歯が抜けない。歯医者で抜いてもらうしかないんだと首をすくめた。そうなんだと吃驚したが、幸い上の前歯二本は続けて自然に抜けて、今まだ永久歯が生えてくる気配が無い。今日抜けたのは下の前歯の隣の歯だ。
 おかげで彼女は今、三本の歯抜けだ。

 今日は日曜日。何処へ行っても混雑するだろうからゆっくりのんびりしていよう。
 溜まり始めた洗濯物など朝から洗ってみる。
 干す場所が無い。タオルハンガーは子供たちが人形の洋服掛けに使っちゃっている。洗濯物が乾くまで、どうか別の場所に置いておいてよ。

 昨夜、紺碧七さんからオフのお誘いを頂いた。紺碧七さんの他、takayamaさん、かわさん、おかかさん、ばんさん、温泉三昧さん、まぐろさんの総勢7名が集結するらしい。都合が合えばお会いできたら嬉しいと伝えておいた。
 朝にも電話を下さり、一昨日オープンしたばかりの前橋荻窪温泉あいのやまの湯へ向かった後は、赤城山から榛名の方へ移動する予定だと教えてくださった。
 関越道の西側ならもしかしたら合流できるかも。

 朝食の後、パパは子供たちを連れて駐車場へ。
 昨日作ったかまくらの隣にソリのコースを作る。子供たちにとっては、スキー場も、雪の積もった駐車場も同レベル。はしゃいで何度もプラスチックのソリで滑り降りる。ソリに飽きたら今度はつららを雪の上に並べて差して遊んでいる。
「ピーターパンごっこしよう、レナはピーターパンをやってね」 
「レナはね、サンタクロースごっこがしたい」
「私はトナカイなんて嫌だよ」
 姉妹で仲良く遊んでいるときは、だいたい二人で何かになりきっている。

 ずいぶん長いこと遊んでいたよ。もうお昼。何処かへご飯を食べに行こう。
 さっきtakayamaさんと紺碧七さんから連絡が入り、あいのやまの次は、赤城温泉総本家へ行き、どこかで昼食を取ってから金島温泉へ行く予定だと聞いた。金島温泉なら榛名湖から近い。たぶんこちらに気を遣って、距離と設備の適当なところを選んでくださったのだろう。
 2時ごろ、金島温泉富貴の湯で落ち合うことにした。

 カナもレナも雪遊び用にスキーウェアを着せていたので、一度部屋に戻って着替える。ズボンをはかせようとしたら、カナはどうしてもスカートがはきたいと言う。仕方ない、一枚だけ持ってきたワンピースに着替えさせよう。最近は二人とも洋服に五月蝿い。年頃かしら。

 真っ青な空と雪景色の中、榛名山を榛名神社に向けて下る。神社よりもう少し下ったところに、びくやという面白い店がある。これまで何度かお昼を食べたことがあってお気に入り。屋内に炭のはじける囲炉裏や、湧き水の池まである。昔の作りそのままだから隙間風など入って冬は寒いが、ヤマメの踊り食いなどちょっと変わったメニューもある。
 ところが残念ながら今日は休業中だった。日曜日だからきっと開いていると思ったのだが、年末は休んで、元旦から営業するらしい。たぶん正月には榛名神社の参拝客でこの辺りも賑わうのだろう。
 当てが外れてしまった。
 他にこの辺りで食事が取れるところというと…榛名神社の参道にあるお食事処か、榛名湖畔…。
 榛名湖畔でわかさぎ定食といきますか。

 湖畔も閑散としていた。年末年始休暇直前の日曜日とは思えない。立ち並ぶドライブインや土産物屋は半分も開いていない。2月頃の氷上ワカサギ釣りシーズンに、まるで原宿のように賑わうのが嘘のようだ。今頃はボート遊びをするような気候でもないし、観光客はとても少ないのだろう。その分静けさがありとても良いのだが、食事をしようとか思うと困ることになる。

 ちょうど榛名山を正面に臨む、湖際のレストラン「手打ち蕎麦 湖畔亭」が商い中だったので、入らせてもらうことにした。

 ここは座敷席から榛名湖と榛名山が一望できるのが売りになっている。
 大型観光バスで乗り付けても十分足りる広い座席も、他に誰もお客さんがいなかったので、あわててつけてもらったストーブがようやく赤く燃え始めてもまるで暖かくならない。コートを着たまま食事を取る羽目になった。
 わかさぎ定食と、キノコ汁うどん、それに単品でわかさぎのフライ。
 榛名湖といえばわかさぎ。2月に氷上わかさぎ釣りに来たパパは11匹しか釣れなかったけど、それはそれ楽しかった。
 パパはまた、今シーズンも懲りずに釣りに来る予定。

 カナはテーブルに置いてあったゴマ振りかけにはまってしまい、ご飯をほとんど丼いっぱい食べてしまった。
 …これってパパの分だったんですけど…。
 食べるときには食べる。食べないときにはほとんど食べない。子供たちの食欲にはむらがあって困る。

 キノコ汁うどんは、温かいキノコ汁に自分でざるうどんをつけて食べる料理。かなり美味しかった。

 1時20分。
 そろそろ榛名山を下ることにしよう。
 伊香保経由のルートは、榛名山から放射状に伸びる道の中でも主要道路でありながら一番カーブもきつい。北麓を降りることになるので日当たりも悪く、冬はいつも凍っている。
 けれど最も景観の良いのもこのルート。
 晴れ渡ったこの日、見下ろす渋川や前橋の市街、そびえる赤城山とその向こうに延々と連なる群馬北部の山々。この広がりと浮遊感。どうやって文字で伝えたら良いだろう。鳥になって大空から大地を見下ろしているようだよ。
 カナは、おうちがおもちゃみたいだと言った。

 2時ちょうど。
 金島温泉富貴の湯、到着。
 一郷一会のメンバーはまだ着いていないよう。
 セメント工場の隣で、これまで何度か前を通りかかったことはあった。入ったことは無かったが、気になる施設のひとつだった。
 入り口に飲泉所がある。
 ちょっと飲んでみると、淡い塩味に甘さがあって、さらにわずかにしゅわっとくる感じがある。舌に引っかかるようなきしつきも。昨日の四万河原の湯みたいに鉄っぽい臭いが強い。
 伊香保の手前で、午前中たっぷり雪遊びをしたレナが寝付いてしまったので、そっと抱き上げて休憩室へ運ぶ。
 腕白怪獣にはこのまま少し寝ていてもらおう。
 カナと二人で先に入浴することにする。パパがレナをみていてくれるというので。

 脱衣所にも浴室にも先客が何人もいる。日曜日だし、地元の方も多いのだろう。年配者が多い。
 内湯は縁が檜の浴槽。湯口にはコップがあり、ここから出るお湯は循環ではないと記載されている。湯面では鮮度の良い鉄の臭いが勝っているが、湯口からは淡い硫黄の臭いもする。わりと温めで浅いので、カナも嫌がらずに入った。
 お湯はにごり湯。湯の中が見えないほどの濁りではないが、緑色と茶色の混じった色。茶色っぽい細かい湯の花。
 寄りかかったら強烈に背中を吸い込まれた。あいたたた。同じ面に湯中からの排出口もあったので、内湯はオーバーフローあり加熱目的の半循環かもしれない。

 露天風呂もある。四方を高く囲われていてまったく景色は望めないが、休むための椅子なども用意されていて、長湯ができそうだ。実際、長々と世間話に興じているご婦人の多いこと。
 10度加熱してあると書かれているこのお湯は、ぬるいのにすぐにのぼせる、そして上がるとちょっと寒い。時間が経つとやっぱりほかほかしてくる。そんな感じ。

 レナがいないとつまらないのか、カナは温まったらすぐに上がると言い出した。
 浴室の入り口辺りですれ違い、ちょうど入れ替わりに入ってきた二人連れは…年恰好からしてもしかして…。
 着替え終わると携帯にメールが入っていることに気づいた。
 紺碧七さんからで、金島温泉に到着したという内容。やっぱり…。

 休憩室ではレナがまだぐっすり寝ていた。こういうときは旅館の立ち寄り湯より、気軽に無料で使える畳の休憩室がついた日帰り温泉の方が助かる。
 パパが、今ちょうど紺碧七さんたちがいらしたよと言った。休憩室に姿が見えないところをみると、そのまま全員お風呂に向かったようだ。
 今度はパパに入ってきていいよと言うと、
「もう一回入ってくれば?」
 もう一回? 今出てきたばかりだけど…(笑)。
 でもさっき入ってきたのが、おかかさんとまぐろさんだったら、もう一回入ってくるのもいいか。

 というわけで、出てきたばかりだが何故かもう一度入れることになった。
 ここは昨日一昨日行った万座、四万のような超ど級ストレートパンチはないけれど、バランスの取れた感じがあって時々入れたら嬉しく思うようなお湯。

 内湯でちょっと温まってから露天へ向かう。
 「あのう…」
 「もしかして」
 やっぱりおかかさんとまぐろさんだった。

 お二人は上がるとき、まったく同じポーズで温泉タオルをきりきりと絞って背中を拭いていた。かっこいいなー、私、あれ出来ないんだよな。今度マスターしなくちゃ。

 休憩室ではちょうど全員揃ったところだった。
 パパは交代でお風呂に向かい、寝ているレナはそっとしておいて、カナを連れて話の輪に加わらせてもらうことができた。
「今日は"赤"ばかりだからそろそろ"白"に入りたいよな」とtakayamaさん。
 赤?
 アとカでアルカリ泉?…違うな、鉄分で茶色く濁った塩泉系かしらん。
 白…はきっと白濁硫黄泉のことね。
 一般人には防衛軍用語はついていけませぬ(笑)。

 ひとしきり楽しい雑談の後、お別れの時間。
 みなさん、ありがとうございました。
 富貴の湯の前で記念撮影。このときやっとレナも起きた。
 紺碧七さんにはまたまたプレミアものの焼酎を頂いて(いつもありがとうございます)、再開の約束をして車を出す。
 ちなみにメンバーはこの後、白沢高原温泉初穂の湯湯宿温泉に入って解散したらしい。

 4時近い榛名山はまもなく日暮れ。
 眼下に広がるパノラマは、夕日で薄桃色に染まっていた。
 榛名山は風光明媚だね。どの季節もどの時刻も見飽きない。

 上り詰めるとちょうど、オレンジ色の夕日が沈むところ。雪の中、立ち木がライトアップされたように光っている。
 道の雪はかなり深く、車のタイヤもずぶずぶと沈む。
 今日は一日快晴だった。
 雪見の露天風呂には入れなかったけど、榛名湖に来てやっとのんびりできた感じ。

 宿の駐車場に着くと、知らない子供が今朝、パパの作ったソリコースで遊んでいた。やっぱりあれ、子供の心をくすぐるんだね。思わず滑ってみたくなるもの。かまくらにも入ってくれたかな。

 部屋に戻ってカナとレナは窓辺に座って榛名湖の絵を描き始めた。
 大好きな湖の見えるおうち、泊まれるのも今回の後、一回きりで終わりかもしれないからだ。
 ここが好きな気持ち、ここに来ると嬉しい気持ち、心を込めて描いてね。
 ここはカナとレナのもうひとつの家なんだものね。

 夕食はパパ特製はりはり鍋。
 しゃきしゃきしていて美味しい。カナとレナは今日お昼を食べたお店で買ったゴマふりかけを早速使っていた。

 夕食後、カナは描いた絵を管理人さんに届けに行った。
 受け取ってくださったのは管理人さんの奥様で、実は近所の子供たちに絵を教えているという奥様は、ここが無くなってもこの絵を大事に持っているわねと言って下さった。
 空には今夜も満天の星。


四日目へ続く…

四日目へ… | 目次へ戻る | 子連れ温泉ガイド地熱愛好会HOMEへ戻る