二日目 2004年3月27日(土) |
カナの体調が一番心配だったが、昨日の夕食は汁物だけだがおかわりもしていた。
昨夜、寝る前に外へ出ると、通路や車の上にはうっすらと雪が乗っていた。暗くて降っているさまはよく見えないが、見上げると頭上には北斗七星が瞬いているのに、頬には冷たい粉雪が当たるのが判るのだった。
朝は快晴だった。
青い湖は、対岸の峯を映し、きらきらと朝日を反射している。
今日は梅を見に行こうと思っている。
3月の榛名といえば観梅。
山の南面には東日本随一と言われる梅林が広がり、3月半ばには榛名梅林ではるな梅マラソン、3月最後の日曜には箕郷梅林では古城・梅の里マラソンが行われる。
…3月最後の日曜というと明日だ。明日には道も渋滞し、とても箕郷梅林には近づけないに違いない。
細いカーブが続く県道28号線を下ると、やがて長野氏の築いた名城、箕輪城址の表示が現れる。箕郷の梅林というのがどこに行けば見られるのかよく判らなかったので、とりあえずナビには箕輪城の場所を入れておいた。ここまで来れば、あちこちに看板が立っている。箕輪小の前を通り、ぐるりと回って少し斜面を登る。
広い駐車場には数台の車が停まっているだけだった。
今回の旅で、専用の双眼鏡を買ってもらったカナとレナは、野鳥観察がしたくてたまらない。梅といえば鶯。何かしら鳥が見られるかな。
桜の花見は毎年どこかでやっている気がするが、観梅は初めてだ。桜だと見るなのに、梅は観ると言う字を使うのが不思議。
箕郷の梅は戦国時代から既に歌に名を残しているが、大正に入ってから計画的な栽培が始まった。その後、昭和三十七年に酒税法が改正され自家製梅酒作りが盛んになると、青いダイヤと呼ばれた梅は需要を大幅に伸ばし、さらに昭和五十年代半ば、カリカリ梅ブームに乗って益々増産が続いた。
今や箕郷は十三万本という、一大規模の産地なのだ。
桜と違い低い樹高で、独特のうねりを持つ枝がそれぞれ天を指し、各枝にはびっしりと白い可憐な花がついている。
白い花の波の奥には赤城山、そして見上げれば榛名山。眼下には高崎の市街地。なるほど、絵になる。
駐車場を出て、梅林の中の舗装された道を登っていけば、道端で梅干を売っている、みのもんた似のおじさん。
「どうだい、満開だろう? 今日が一番見ごろだね」
振り返ればちょうど左右に迫る梅の枝の奥にぼんやり霞んだ関東平野。
「ここからの景色がちょうど、先日の上毛新聞にカラーで載ったんだよ、見たかい?」
見ていないと言うとおじさんは新聞を持ってきて、
「これだよ」
「おじさんが撮ったの?」
「まさか、カメラマンさ」
その舗装路を一番上まで行くと鳴沢湖が見えるそうだ。さらに道を折れて先へ進むと公園があって出店なども並んでいるらしい。
そちらにも駐車場があるというので、いったん車に戻って公園の方へ行ってみることにした。
歩いても行かれるが、大人の足でゆっくり回って一時間半という。寄り道ばかり子供たちを連れていたら半日コースになりかねない。
「公園で売っているお焼きなんかは、みんな地元の人の手作りだよ。山の中だからテキ屋なんかは入れないのさ。日ごろ梅林で肥料なんかをまいているおばちゃんたちの手作りだよ」と、おじさん。
このあたりで一番安いと自称する梅干を二種類買って、先を急ぐことにした。
花より鳥の見たい子供たちは、ねえねえ、どこに鳥がいるの?と騒がしい。
さっきの駐車場もだが、公園の駐車場も料金を徴収する気配は無かった。本当は土日は300円かかるらしい。
公園は小さく、遊具はブランコ、シーソー、滑り台ぐらいしかないが子供たちには十分。
滑り台のある場所はちょっとした高台になっていて、四方に広がる梅林がよく見渡せる。明日のマラソン大会にあわせてか、ブルーシートを張られたステージもあった。誰もいないのをいいことに、早速カナとレナは登って一踊り。レナはお遊戯会では踊ってくれないのに、こういうところでは面白がって踊るのね。
春の群馬。
初めて来たけれど、梅の花咲く里の景色は不思議と郷愁を感じさせる。
もし外国から友人が訪ねてきたら、日本の景色を見せてあげると言って真っ先に連れてきたい、そんな感じ。
お昼は水沢うどんでも食べに行こうかと朝、話していたが、カナの食欲も完全に戻っていないし、どこか道筋で見つけたお店に入ることにした。
石挽そばの看板を見つけて「そば盛」という店を選んだ。
掻揚げ丼定食とざるせいろを頼む。
朝食をたっぷり食べたレナは少し食べただけ。朝は食欲の無かったカナは丼ご飯をお腹一杯食べた。
柔らかめのもっちりした蕎麦で、味はまあまあというところ。とにかく凄いボリュームで、何でせいろを食べただけでこんなにお腹いっぱいに?と思うほどだ。
昨日は温泉に入れなかったので今日はどこにしようか。
このあたりでまだ入っておらず、気になるところというと…
群馬温泉か総社鉱泉センター、ちょっと離れて
スカイテルメ渋川…。
近いところで群馬温泉にしようか。
群馬温泉は割りとお湯のいいセンター系というイメージしか持っていなかった。
実際に行ってみると、高崎や渋川から出ている路線バスも着く、かなり大きな日帰り温泉だった。
駐車場もほぼ満車だ。春休みの土曜日なので、家族連れも多そうだ。パパ曰く、明日の梅の里マラソンの出場者も来ているんじゃないか。確か3,000人くらい全国から集まると、梅干売りのおじさんも言っていた。前日からこのあたりに泊まっている人も多かろう。
料金は通常大人3時間500円だが、土日割り増し分を群馬観光イベント特集のクーポン券でやっと平日料金まで割り引いた。昨日なら26日でフロの日ということで半額だったと、実は夕方、takayamaさんから電話で聞いた。
混雑している中をくぐって浴室へ向かう。
カナとレナはママと女湯へ。
脱衣所のロッカーもぎっしりだが、ベビーベッドなどはちゃんと備え付けてあった。
下駄箱のロッカーがコインが戻るタイプだったので油断したら、脱衣所のロッカーはコインが戻らなかった。ううむ、ちょっとせこいぞ。
お風呂は見たとたん、子供たちがはまりそうだな、と思った。
カナとレナのはまる温泉には共通の傾向がある。
まず温めの塩泉。露天風呂があること。さらに露天風呂は岩風呂か雪見風呂で、家族向けのセンター系かあるいは他に人のいない貸切状態。何故かお湯の色が黄色っぽいところもはまりやすい。
中央に熱めの浴槽。周りに洗い場と温めの浴槽。温めの浴槽の一部に打たせ湯と圧注浴。隅に水風呂と足湯。外には庭園風の露天風呂もついている。
カナは最近、自分で洗う。
4歳のレナは親に洗ってもらう分、先に洗い終えてさっさとお風呂へ。この時点で親はまだ自分を洗い終えていない。
レナは小柄なので脱衣所でも2、3歳と間違われていたが、お風呂でもよっこらしょと後ろ向きで入るのを見て、あわてて他の人が手を差し伸べてくれた。
放置しておいた緑茶みたいな濃い黄色のお湯だ。温めの浴槽は41度に調節してあり、油系の臭いがする。柑橘系のオイルよりもっときつい、機械油の臭いのようだ。
湯口からは源泉が出ていて湯のみがおいてある。味は薄い塩味。まったりした油っぽさが口の中に残る。
いかにも塩と油〜といったお湯だ。
温めの浴槽ではそれほど感じないが、高温浴槽ではにゅるにゅる感もある。湯の中でにゅるにゅるとして、出てぬれたまま腕などこするとオイルっぽいぬるぬる感がある。
子供たちを誘って露天風呂に出てみた。
露天風呂が一番ぬるく、茶色い湯の花も沢山舞っていた。
子供たちに「これは温泉のお花なんだよ」というと、二人ともしげしげと眺めてすくっていた。
「ゴミみたいだね」とレナ。
あはは。でも温泉の花がある方が、いい温泉なんだよ。
露天風呂の湯口にも湯のみがある。
何だか、内湯のお湯より少し塩味が濃いような気がする。気のせいかしら。
胃腸に良く食欲増進の効果があるという源泉は、カナにこそ飲んでもらいたかったが、いつものようにカナは尻込みして飲もうとせず、レナばかり何杯も一人でごくごく飲んでいた。
露天風呂でのんびりしていたら、カナがもう出ると言い出した。
まだ本調子でないし、そろそろ切り上げた方がいいだろうと思ったが、レナはこのお風呂が気に入っているらしく、出ない出ないと言う。
置いてくよ、と言ったら、やっとついてきた。
なのに出るといったはずのカナは今度は足湯にはまってしまった。
ここの足湯は裸で入る足湯。かなり熱めだが、カナは熱くなると隣の水風呂に行って足先を冷やすということを繰り返していた。
うん、キミはしもやけだから、それって効くかもしれない。
レナもちょこちょことカナの後について足湯に行ったが、隣に座っていたおばさんにいたく気に入られて、「可愛いわー」といきなり抱っこされて、じたばたもがいていた。
湯上りはかなりベタベタとする温泉だった。
脱衣所を出たところに駄菓子売り場があって、その隣に飲泉所が備え付けてある。
ここでもう一度、源泉を飲んでみてびっくり。
硫黄の臭いがする!!
浴槽と同じ源泉だよね?
なんて臭いってデリケートなんだろう。
さて、この群馬温泉やすらぎの湯の正面には、はるな酪菜館という農産物直売所のようなものがある。帰りがけに入ってみた。
ここで買い物をした荷物はやすらぎの湯の入浴中は預かっていてくれるらしいし、ここで米を3,000円以上買うとやすらぎの湯にタダで入れたりするらしい。
野菜なども売っているが、特筆すべきはパウンドケーキのたぐい。スイスロールなどを作ると、どうしたって切り落としたとき端の方が余る。こういうのを半額で売っているのだ。カステラのきれっぱしのようなのは、ずっしり大袋に詰め込んで200円などで売っている。半額のロールケーキを買ってみたけど美味しかった。お客様に出すのでなければ、この値段はお得。
帰り道は県道126号線から。
ちょうど今朝、箕郷梅林に行くとき通った道だ。どんどん登れば、まだまだ山の斜面に梅林が続く。
弥生3月、榛名山をドライブするならこの道がいい。白い花が道の両側を彩る里山の景色を楽しめる。
空は一日晴れ渡り、ぽかぽかと長閑な陽気。春の山、空は水色、今日は観梅日和。
3時には榛名湖へ戻っていた。
遊び足りないカナとレナは宿の駐車場のところで雪遊び。
榛名湖はあまり雪は降らないけれど、気温は低いので日影にはまだ雪が残っている。雪で小さなおうちを作った。庭もある。門も石で作ったよ。
レナは一度、トイレに部屋まで戻ったが、上着を着る間ももどかしく、またすぐ飛び出していく。
その後は部屋でお店屋さんごっこ。
キャンディーがコイン代わり。布団の上におもちゃを並べて、カナが買いに来てくださいと売り込みに来る。
これとこれ、と選ぶと、カナがレジに連れて行く。レジに見立てたダンボールの奥にレナがちょこんと座り、ピッピッとバーコードを打つ振りをすると、買った商品をひとつひとつビニール袋に入れて渡してくれた。
生真面目な顔で作業しているレナに、
「レジのおばちゃん」と呼びかけると、嫌々をされてしまう。
湖は静かな夕暮れ。
日が落ちた後、ゆっくりオレンジ色の空が紫に変わっていく。
三日目に続く…